小説を書く時、視点は固定した方が読みやすいよ、という話
間違いというわけではないのだが、視点がころころ切り替わる小説はとても読みにくい。
チャプターごとに視点を変えるのはいいが、こういうのはとてもよろしくない。
とにかく久美子は、麗奈の誤解を解かなければと思った。
大体、いいかげん信用してほしいものだが、いちいち疑われるのは麗奈の愛が足りないのか、自分の言動に問題があるのか。
麗奈はじっと久美子を見つめている。随分焦っているようだが、はっきりと久美子の口から説明してほしい。
格段、信じていないわけでもないのだが、まあ半分くらいは意地悪である。
「つまりあれは、秀一が勝手に話しかけてきただけで、私は渋々相手をしたの」
「ふーん」
麗奈は気のない返事をして、冷めた目で久美子を見た。
渋々なら相手をしなければいいのにと思う。その辺りが、久美子の調子の良さというか、誰からも嫌われない社交性なのだろう。
久美子は麗奈がなかなか信用してくれなくて、若干の苛立ちを覚えた。
3行目、視点がいきなり麗奈に切り替わり、誰が焦っているのかわけがわからない。
ここでは焦っているのは久美子なのだが、1行目、2行目が久美子視点なので、そのまま読むと焦っているのは麗奈に見える。
久美子の視点で書いているのであれば、せめてこのシーンだけでも、久美子視点のまま書き続けたい。
もちろん、視点を固定すると、相手の心境は説明できない。
しかし、相手の心境などわからなくて当然なのだ。
それを無理に説明しようとすると、こういう残念な感じになる。
とにかく久美子は、麗奈の誤解を解かなければと思った。
大体、いいかげん信用してほしいものだが、いちいち疑われるのは麗奈の愛が足りないのか、自分の言動に問題があるのか。
麗奈はじっと久美子を見つめている。久美子の口から説明してほしいのだ。
麗奈は久美子を信じているのだが、半分くらいは意地悪でしているのである。
「つまりあれは、秀一が勝手に話しかけてきただけで、私は渋々相手をしたの」
「ふーん」
麗奈は気のない返事をして、冷めた目で久美子を見た。
渋々なら相手をしなければいいのにと、顔に書いてある。嫌われるくらいなら、何かを渋々することも多い久美子とは、根本的に考え方が違うのだ。
久美子は麗奈がなかなか信用してくれなくて、若干の苛立ちを覚えた。
必ずしもいけないわけではないが、基本的には相手の心境は断定的な表現で書かない方がいい。
麗奈がじっと見つめているのは、久美子の口から説明してほしいからなのかどうか、断定で言い切れるほどの材料は久美子にはない。意地悪でしているのかどうかも同じ。
また、耳なし芳一ではあるまいし、あまり長い文章を顔に書くのもやめよう。
もちろん、視点の人物がものすごく相手を知り尽くしているとか、経験的に明らかとか、すごい自信家とか、逆に後から全部誤解だった展開にしたいとか、何か意図があって書く場合は別である。
そうでなければ、普通は相手の心境は憶測で書くか、仕種に盛り込む。
とにかく久美子は、麗奈の誤解を解かなければと思った。
大体、いいかげん信用してほしいものだが、いちいち疑われるのは麗奈の愛が足りないのか、自分の言動に問題があるのか。
麗奈は説明を促すように、じっと久美子を見つめている。真剣な眼差しだが、心なしか笑っているようにも見えるので、意地悪しているだけかもしれない。
本気だといけないので、久美子は身振り手振りも交えて説明した。
「つまりあれは、秀一が勝手に話しかけてきただけで、私は渋々相手をしたの」
「ふーん」
麗奈は冷めた目で久美子を見て、気のない返事をする。
久美子は麗奈がなかなか信用してくれなくて、若干の苛立ちを覚えた。
前半の麗奈の心境は憶測表現で書き、後半の心境はばっさり削除した。
前半は久美子はそれとなく理解しているが、後半は久美子は理解していない。
どうしても麗奈の心境を説明したければ、もう直接言わせよう。
「渋々なら、しなければいいじゃない」
ぽつりと麗奈が呟いた。
久美子はむっとする。信じてくれてはいるようだが、嫌なことは嫌われてでもしない麗奈と、嫌われるくらいならしてもいい久美子とで、考え方に隔たりがある。
「別に話すくらいいいじゃん」
「また李の木の下で帽子を直す話をする?」
「帽子を直したくらいで、李を盗まれるって思う方に問題があるんだよ」
まあでも、麗奈はともかく、寡黙なキャラだったりするとこういう手段も使えない。
もっとも、寡黙な他人が何を考えているかなんて、誰にもわからないのだから、無理に書こうとしなくてよい。
後からの言動で、その時何を考えていたかわかればいいなぁ、くらいで。