希望のない世界から

消化試合を生きる

『響け!ユーフォニアム』について

久しぶりに『響け!ユーフォニアム』についてだらだら書いてみる。

TVアニメは8話まで放映された。自分もとても楽しみにしていた、久美子と麗奈のあがた祭りの回だったが、今ひとつ楽しめなかった。

アニメの内容が気に入らなかったわけではなく、その少し前に原作最新刊の展開を知ってしまったからだ。

 

久美子と秀一がくっつくという情報を得た。

深く絶望した。

別に、実際に久美子と麗奈が百合百合展開で愛し合うなんて、思ってはいない。所詮は二次創作の域を出ない。

久美子がくっつくなら秀一しかいない。

原作に登場する男など秀一と滝と後藤くらいしかいないわけで、久美子が恋愛するなら、相手は秀一しかいない。

それはわかっていた。

 

ただ、それをわざわざ公式で文字にされたのが残念でならない。

原作1巻は吹奏楽部がまとまっていくところや、トランペットチームの確執、中3の一言をきっかけとする久美子と麗奈の友情や、久美子自身の成長が中心で、久美子と秀一はほとんど絡みがない。

2巻にいたっては、秀一は終盤に少し登場しただけ。やはり現二年生を中心とした人間模様がメインで、久美子もそれに参加する展開。

全体を通して久美子と麗奈はスキンシップも多いし、麗奈にとってはほとんど唯一の友達である。久美子の方でも麗奈を特別な目で見ている。

この作品において、久美子が秀一とは恋愛をせず、麗奈と仲を深めていくという妄想をする余地くらい、残しておいてほしかった。

 

1巻でも2巻でも、秀一の登場頻度は低いが、登場するたびに久美子が異性を意識する描写がある。

これは本当に久美子の気持ちなのだろうか。

どうにも作者が久美子にそうさせたかっただけで、黄前久美子という人間の意思とは思えない。

それくらい、この小説において恋愛の描写は少なく、重要度も低い。

 

久美子が秀一と付き合いたかったのではなく、作者が久美子と秀一を付き合わせたかった。

 

どうしてもそういうふうに感じる。

小説を書いたことがある人間ならわかると思うが、キャラが生きれば生きるほど、作者の思い通りにならない。

それはキャラの性格と行動に矛盾が生じるからだ。

黄前久美子という人間は、いつでも一歩引いたところから冷めた目で見ていて、事なかれ主義。自分の意見を言うのが苦手で、自分の意見に関係なく、多数決では多数派に入りたい。

部活もそれほど打ち込む気もなかったが、みんなが頑張るというのなら自分も頑張る。その程度の熱意だったが、だんだん本気になって、最後には関西大会に進めて感激する。

細かい部分が実にリアルに描かれているのに、秀一のことだけは取ってつけたよう。

 

中3の一件から、口もきいていないような状態のまま高校に進んだ。

部活に入るか入らないかを決める時も、秀一の存在などまったく気にしていない。

部活に入ってからも、ほとんど絡みはない。

にも関わらず、妙に意識したり、最後には手を握ってみたり。

挙げ句の果てに、付き合ってラブラブ?

それは本当に黄前久美子の意思なのか?

 

俺の妹がこんなに可愛いわけがない』という小説がある。Amazonのレビューでもわかるが、これの最終巻がひどい。

自分も最終巻を買ったその日に、持っていた全巻手放した。

もちろん、支持する人もいる。

こと『響け!ユーフォニアム』については、支持する声が多数派だ。

自分のブログに来る人も、「久美子 秀一 恋愛」とか、そういうキーワードで来る人が多い。一般的にはそれが求められている。

だから、今書いているこのエントリーは、多くの人は「何言ってんだこいつ」と思うだろう。

ただ、自分は最新刊の内容で、この作品に対する熱意を失った。正確には、原作を見限った。

キャラは魅力的だと思う。久美子も麗奈も大好きだし、最近は香織が好きでしょうがない。

 

昔、『With You ~みつめていたい~』というゲームの二次創作で、『リアルタイム乃絵美小説群』と題して、自分なりの乃絵美エンドを描いた。

公式がやってくれないのなら、自分で作ろうと思ったのだ。

幸いにもこれは、乃絵美人気の中、それなりに多くの人に楽しんでいただけた。

久美子×麗奈の百合展開は、あの時の乃絵美人気と比べたら恐ろしくマイノリティーなのはわかっている。

それを承知の上で、自分なりの北宇治高校吹奏楽部を描いて、ほんの少しの人でも楽しんでもらえたら、それでいいかなと思う。

『響け!ユーフォニアム』は自分にとって、限りなく『With You』的な作品。基本設定やキャラは大好きだが、公式のエンディングが受け入れられない。

 

 

香織について

もうこの作品のエントリーは書かない気がするから、少し香織についても書きたい。

この子、1年も2年も当時の顧問の方針により、B部門だった。

3年生でようやくA部門になり、ソロも吹けるかと思ったら、麗奈の登場でそれが叶わなかった。

その救済は無い。

もしも自分がソロを吹いていたら、全国にも関西にも出られなかったかもしれない。だから麗奈が吹いて良かった。

確かそんなようなことを言っていたが、本当に?

これも作者が香織にそう言わせただけで、中世古香織本人の意思に思えない。

 

現二年生が大量に辞める事態でもなお、腐らずに頑張ってきた。

1巻の最後に、あの状況でもう一度ソロのオーディションをしてくれと懇願するくらい、ソロに対して強い思い入れがある。

その香織が、そんなにあっさりと割り切れるのだろうか。香織の3年間は、そんなにあっさり割り切れるようなものだったのだろうか。

あっさりではなかったのかもしれない。描写されていない部分に葛藤があったのかもしれないが、それは読者の希望に過ぎない。

久美子と秀一の恋愛などどうでもいいから、この中世古香織という人間の心の葛藤こそ描けよと思う。この作品、元々そういう部員たちの心の物語だろう?

 

作者は中世古香織には大して思い入れがない。

 

今のところ、自分はそう感じている。

優子の方がずっと生き生きとリアルに描かれているし、極端な話をすれば、中学時代に久美子に座を奪われたユーフォニアムの先輩の方が、香織より遥かに人間らしい。

何も麗奈を恨んだり、泣き喚けと言っているわけではない。あまりにもB部門でしか出られなかった香織の2年間が、軽く扱われていると感じただけだ。

 

自分が二次創作で香織にソロを吹かせたのは、そういう理由による。

麗奈がソロを吹く展開は原作で読めばいい。

久美子と秀一がくっつく展開も、原作で読めばいい。

久美子×麗奈や、香織の努力が実を結ぶ話。

本来二次創作は、原作の時間軸のどこかに、こういう話もあったみたいなサイドストーリーを描きたいのだが、この『響け!ユーフォニアム』では、もう原作のサイドストーリーは諦めて、そういう実際には起こらなかった「もしも」の物語を描いていきたい。

 

 

最後に。

公開する前にちょっと原作について調べたら、久美子と秀一が付き合うのは3巻のラストで発覚するとのこと。

手元に3巻があったので、ピラピラめくってみたら、なるほどそういう記述があった。

じゃあもう、まだ途中だが、3巻を読むのもやめにするか悩ましい。

最新刊も含め、すべて把握した上で独自の物語を描きたい思いもあるが、すべてを把握したら、その時点で完全に冷めてしまいそうな予感もある。

 

秀一と付き合う久美子など見たくなかった。

本当に見たくなかった。